コラム

売掛金債権の時効管理

2021年01月27日

 2020年4月1日、民法のうち債権法と言われる部分が改正、施行されました。
 そのうち、大きな変更点の一つとなっているのが時効です。

 これまで、消滅時効については、職業や債権の種類に応じて、1年、2年、3年といった短期の消滅時効が規定されており、売掛金債権(生産者、卸商人または小売商人が売却した産物または商品の代価にかかる債権)の消滅時効は2年と定められていました。
 これに対し、改正後の民法は、この職業や債権の種類に応じた短期消滅時効の規定を削除し、原則として、

  • 権利を行為することを知った時から5年
  • 権利を行使することができるときから10年間

の消滅時効期間にかかることとされています。
 つまり、売掛金債権の消滅時効期間は、これまで請求ができることとなった時から2年とされていたところ、5年に延長されています。そのため、今後は少なくとも5年間は帳票類を保存しておく必要がありますので、実務上の注意が必要です。

 また、新しい民法がいかなる債権についても適用されるわけではありません。
時効期間に関する経過措置を定める改正法附則10条4項は、改正法の適用について、

「施行日前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。)におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による」

としています。
 つまり、施行日前に生じた、または締結した契約に基づく売掛金については、改正前の2年の消滅時効にかかることになります。
 「民法が改正されたから、5年間は安心。」と思っていたら、実は改正前に締結した契約基づく契約だったので2年で消滅時効期間が満了していたなどということにならないよう、契約日や債権の発生日はよく確認しておく必要があります

 また、時効の更新についても注意が必要です。
 時効は、債務の承認といった時効の更新事由(改正前の中断事由)が生じると、それまで進行していた時効期間が法的意味を失い、新たに時効期間が進行します。つまり時効の更新事由があったときには、それまでの時効期間がリセットされ、その時点から新たな時効期間がカウントされはじめることになります。

 では、改正前に生じた売掛金債権について、改正後に時効の更新事由が生じた場合、中断後に新たに進行する消滅時効期間は、改正前の2年でしょうか、改正後の5年でしょうか。
改正前の時効中断(改正後の更新)の実務においては、時効中断があった場合の時効期間については、中断した権利・義務に適用されていた時効期間と同一の期間が適用されると解されていました。そして、前述のように、時効の期間については、改正前の民法が適用されることとなっていましたので、この点も変わらないことになります(「民法改正対応版 時効の管理」弁護士酒井廣幸著 398頁)。
 つまり、改正前に発生した債権について、改正後に債務の承認などの時効の更新事由が生じたとしても、更新後の当該債権の時効期間は改正前の民法により2年となり、5年になるわけではありませんので、この点にも注意が必要です。
ただし、改正前の債権に関して訴訟を提起し、判決が確定したときには、その権利の消滅時効は10年となります。この点は改正前も改正後も変更はありません。
 
 

 

<まとめ>

  • 売掛金債権の消滅時効期間は2年から5年(主観的消滅時効期間)に変更された。
  • 改正前に生じた売掛金債権や改正前に締結した契約に基づく売掛金債権の消滅時効期間は、改正前の民法が適用され2年であるため、債権の発生日や根拠となる契約日ごとに時効期間の管理が必要である。
  • 改正前に生じ、または、改正前に締結した契約に基づく売掛金債権について、改正後に時効の更新事由が生じた場合でも、更新後の消滅時効期間は改正前の2年である。
  • 債権について確定判決を得たときには、その種類や発生時期、根拠にかかわらず、消滅時効期間は10年となる。

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